威鶴の瞳


「……本当の『依鶴さん』?」

「そう。……27時間くらい、記憶が飛んでたから」



口に出すと、『いよいよか』って気持ちが膨れてくる。

27時間のうち五時間前後はきっと睡眠だけれど。

あれ、『依鶴』だから……もっと寝ていたのだろうか?



どちらにしても私が先か、威鶴が先か、それとも同時か……私たちは消える。

吸収されて、元の一つの柴崎依鶴に戻る。



「さっき、11時頃に私は気が付いて、そのまま実家に帰ろうかとも考えたけど……怖かった。自分の家なのに、帰るのが怖い」

「……」

「どうして、かな。私もトーマと同じだったのに、考えもしなかった」



今までトーマに逃げ場を与えていたのに、私も威鶴も、BOMBを逃げ場にしていた。

本当の家事体考えもしなかった私たちは、トーマよりも厄介だったのかもしれない。



逃げている、それ自体に、気付かなかったなんて……。



「家なんてな、変わるものなんだ」

「……」



なだめるかのように、やさしい声が私に降る。
< 335 / 500 >

この作品をシェア

pagetop