威鶴の瞳
そう聞けば、ゆっくりと顔が上がり、俺を見る。
困ったような表情で、眉を寄せている。
「……ごめんなさい」
「謝るようなこと、お前はしてないだろ」
「でも……私が『あの子』じゃなくて、ごめんなさい……」
『あの子』
それが指すものはきっと、俺が想っている依鶴さん。
何も、言えなくなってしまった。
「いただきます……」
部屋には、小さく、その声が響いただけだった。
俺は後悔した。
『どれも全部依鶴だから、俺はどの人格だって好きだ』
それを言ったのは俺なのに、確かにそう思っていることに嘘はないけれど、どれも依鶴であって依鶴じゃない。
これという定義がないから、不安定だ。
苦しめたくはないのに、苦しめてしまう。
同時に俺も、酷く苦しいと思う。