威鶴の瞳
依鶴の抱えていた恐怖。
それは、本心では俺も同じで、怖くて、逃げ出したくて。
でも、それじゃ『柴崎依鶴』が前に進めない。
ずっと18歳のままじゃ、ダメなんだ。
だから俺は消えるということを意識から外していた。
意識するから怖くなる。
でも実際、消える時にはきっと、痛みも恐怖もない。
突然作り出されたように、突然消える。
そう考えるときっと……当人の俺たちよりも、周囲の方が『痛い』と思う。
俺たちが完全に消える前に、本当の意味に気付いてしまった……トーマのように。
まるでタバコの副流煙だな。
当人よりも外の人間に害がある。
「依鶴さんが消えて、お前が消えて、全てが元に戻った時……過去は何も残らないだろ?思い出とか、想いとか」
「……きっと、そうだろうな」
「俺が恋してるのはお前じゃない。元のずっと眠ってた『依鶴』さんでもない」
「……わかってる」
「消えてほしくないものがいつか消える、わかっていてもどうにも出来ねーし、もどかしかった。だからイラついてた。俺が会いてぇのはお前じゃねーって」