威鶴の瞳


すれ違い際に、優雨さんは私の耳元で囁いた。





「先の事なんて考えないで、時には感情に身をゆだねる事も大切よ」



そう言って、病室を出て行った。





二人きりの病室は、とても静かで。

私は、さっきの優雨さんの言葉を、自分の口から言ってみた。



「『時には感情に身をゆだねる事も大切』」



涙はまだ、止まらない。

先の事なんて考えないで、私がしたいこと……。



「……お、おい、依鶴……?さっきのは違うっつーか、俺もレインの考える事はわけわかんねぇっつーかな……」



私に弁解しているらしいトーマ。

でも今は、自分の『思い』のことでいっぱいいっぱいだった。

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