威鶴の瞳
記憶、全部残ってるもんなぁ……。
威鶴も、依鶴も、『あたし』も。
繋げてみると面白いもんだ。
パーツが全部バラバラに見えて、1つにまとまる。
そりゃ、体が1つしかないからそうなったんだけど、全部の悩みとか感情とかが筒抜けで、私の心も……トーマに奪われて、まるで依鶴を引き継いだみたいに、トーマが愛しくてしょうがない。
「あの日は大変だったな。レインなんて泣いてたのに、まさか記憶が残るなんて」
「その反動で『一緒に暮らしなさい!』だったしね……」
「千鶴さんは『おかえり』って冷静だったし、お前も『ただいま?』って、何でか疑問系だったし」
「あの時は!……目つむる前の記憶がハッキリしてたのに、でも自分の記憶じゃなくて混乱してたというか、なんか夢現だったというか……」
あの後、しばらくパニックだった事は忘れない。
レインに質問責めされるわ、ちづちゃんに笑われるわ、トーマは固まるわ、あたしは大混乱するわ。
「トーマだって、アホ面で固まってたしね!」
「アホ面っつーな!そう言う奴にはなぁ」
ちょうど到着したその場所に車を止め、トーマが助手席にいるあたしの方へと身体を向けてニヤリと笑う。