威鶴の瞳


可哀想な、トーマ……。

きっと何も知らず、何も疑わず、その罪を背負うモノを受け入れる。

何よりも苦しい選択をする。



幸せを奪うものを──。



「あなた自身のことは、いいんですか?」



頭にある邪念を振り払い、彼女に視線を向けた。

竹原遥香は、少し悩んで、それから言った。



「思い浮かびません」



にっこり笑ってそう言う彼女。

この人は、周りの人のことしか考えていないんだろうか?

自分のことは、後回しなのだろうか?



そう考えたら、少し寂しく感じた。



「よく恋だったり、お仕事について聞かれることがありますが」

「恋は……暫くいいです。お仕事も順調ですし、後はなにも」



そう言って彼女は席を立つ。

もう、話す事はないと言うように。



「あ、すみません、おいくらですか?」

「1000円です」

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