教組の花嫁
 
 18年前。

 昭和天皇が癌で崩御され、元号が平成に改元されてから、数年経った199×年。


 小波の家族は、淀川大橋の近くで酒屋を営んでいた。


 その当時、傾きかかった今津郷の醸造会社を2代目が跡を継いだ。

 2代目は極端な合理化を進め、挙句の果てには、工場の一部に新興宗教の建物を建て始めた。


 この新興宗教が今の『命の泉』であり、2代目が今津道心である。


 当時、酒屋の業界では、醸造会社が宗教を起こしたとして、大いに話題になった。

 小波の父の星野小造は、『命の泉』に人並み以上の興味を持った。

 父は暇を見つけては、国道2号線と臨港線を車で走り、『命の泉』のある西宮の今津へ。

 創業当時の小さな会館で、父は教祖の話に熱心に耳を傾けた。



 「あなたの隣人を、あなた自身のように愛さなければならない」



 父は、聖書の話を基にした道心の話に心酔した。


 そんな時、父は自分が重い病気を患っている事を知った。
 その病気とは白血病だった。





 
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