夜の図書館
『もしもし?昨日貴文に電話入れたんだけど、返事が来ないってどうなってるの?』
「わかりません」
『お母さんは元気なの?週一回なら寂しがるでしょう。二人で週二回ぐらい行ってくれたら助かるんだけど』
「お義姉さんは来ないんですか?」
『私は仕事があるの。今日だってこれから夜勤なのよ。入院患者は増えるし医者と新人は使えないし、もう散々よ。責任のない仕事で羨ましいわ』
「ですよねー」
あはは……と、いつものように愛想笑いをしてみたけれど、今日は上手くできなかった。
『父の法事の話があるから、貴文に電話するように言っておいて』
「言えないかもしれません」
『はぁ?何を言ってるの?一緒に暮らしていて言えないっていうの?』
「だってしょうがないじゃないかー」
『何ですって?』
綾子にはえなり君は通じないようだ
面白味のない女だな。
「何でもないです」
『そうなの。じゃぁ頼むわね』
「お義姉さん」
『何よ』
「私、貴女の弟に性病を移されました」
そう言うと
2分ほど通話不能となる。
あれ?
繋がってる?
声が遅れてる?
腹話術師の人みたい?
なんたっけ?
劇団ひとり?じゃなくて……
『だから何?』
強張った返事が聞こえた
お義姉さん
そこは違うでしょう
【だってしょうがないじゃないかー】って切り替えして欲しかった。