眠り姫の唇
…嫌な予感がした。
ニッコニコと普段の2割り増しな前川の笑顔にはあんまり良い思い出がない。
瑠香は重い腰を上げて前川に近付いた。
「…前川先輩なんか用ですか?」
瑠香は投げやりに訪ねる。
「ちょっと高江にお願いしたいことがあって♪」
「…。」
やっぱり嫌な予感がする。
なんなのだこの楽しくて仕方ないといった笑顔は。
前川はスッと手に持っていたクリアファイルを瑠香の前に差し出した。
「これ9階に持って行ってね!」
まさか。
「岩城によろしく言っといて♪」
「…。」
瑠香はげんなりしてその場で立ちすくむ。
そんな瑠香をガシッと片手で肩を抱き寄せ、前川がウキウキしながら瑠香に囁く。
「頑張ってね!お姉さん幸運を祈ってるわ♪」
ウザい。ウザすぎる。
この無駄に輝く瞳がウザすぎる。
瑠香はゆるりとその腕から抜け出し前川に抗議した。
「ヤですよそれぐらい自分で行って下さい。」