眠り姫の唇
「なにいってるの!この仕事の山を見なさい!」
そう言って前川は大げさに机を仰ぐ。
うっ。
確かに尋常な量ではない。
それでも前川という人物は普通の人の二倍のスピードで仕事を片付けてしまうのだ。
「でも私も今日残業になるぐらい机の上いっぱいなんですよ。」
「ふむ。分かったわ。私がそれ渡してくるから、私の半分もらって?」
「な、なんでそうなるんですか!」
前川の仕事なんて全然分からない。
机の端にある資料をチラ見してもワケの分からない単語が並んでいる。
「さあ、観念しなさい高江!」
そう言って前川はニッコリ笑い机に向き直ってしまった。
瑠香はいつの間にか手の中に収まっているクリアファイルを握り、きびすを返しながらため息をついた。
岩城と前川の脅しの手口が若干似ていることに背筋が冷える。
あの世代、怖い。
まぁ、どうせ今日は岩城と一緒に帰らないし、とっとと渡して降りてこよう。
瑠香はエレベーターで9階のボタンを押した。