眠り姫の唇


9階のオフィスの扉を恐る恐る開ける。

そういえば9階に足を踏み入れたのは新人挨拶以来かもしれない。

9階には本当に縁がないのだ。

パッと目に入ってきた空間に瑠香は少し緊張する。

同じ建物内でも、物の配置と人と雰囲気が違えば、全然知らない場所に見えた。


さて、どうやって岩城を探そうか考えていたら、案外あっさり見つかった。




「だからあれほど報告しろと言っただろ!」


入り口から少し奥の場所で見慣れた背の高い男が縮こまっている若い男の子を怒鳴っていた。


完璧に仕事用の厳しい顔で、あの冷たい瞳のまま険しく眉間にシワを寄せている岩城にこんなに離れている瑠香さえビビる。



しばらくその様子を見て入り口付近で固まっていたら、 近くにいた男性に声をかけられた。


「あれ、もしかして7階の高江さん?珍しいね。」



「え、はい。」


誰?


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