眠り姫の唇

岩城は珍しく息を乱しながらも、瑠香の言葉に耳を傾け、しぶしぶ動きを止めた。


「…桜子?」


「Yシャツに、桜子さんの口紅がついてますよ。」


瑠香はその汚れた部分を岩城に見えるように引っ張る。


岩城は怪訝な顔をしてYシャツを脱いだ。


「…ああ、桜子って、サクラの事か。」


サクラ。


よ、呼び捨てなんだ…。


思い人の前川すら苗字で呼んでいたのに、なんで桜子さんだけ愛称なんだ。


瑠香は痛む胸にぎゅっと手をやる。


「…お前、妬いてるのか?」


「…妬いてません。」


弱々しい声で悪態を付く。


「いや、妬いてる。」


そういって、上半身裸のまま、岩城は瑠香を抱きしめた。


肌と肌が密着し、また心臓が飛び跳ねる。

そのまま引っ付いてしまいそうな暖かさと触り心地に、思わず参ってしまいそうになった。


さらさらと岩城は瑠香の素肌を撫でながら、耳元で囁く。


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