眠り姫の唇
またってなんだまたって。
まるで手の掛かる猫にでも言うように、脅し口調でもなければあまり期待もしていないような素振りで、岩城はそのまま店に消えていく。
クスリと笑う目元が、なんだかほんのちょっと優しくて、瑠香は逃げる気も起きなかった。
しかし。
「…い、いやいやだめだ。そう言うわけにも行かないじゃない。」
いきなりアンな事してくる危険人物だと瑠香は自分に言い聞かせて、おもむろに車から降りようとした。
あ、
「やられた…」
しかし、そのもくろみはあっさり散ることとなる。
あの男…。
しまったとばかりに瑠香はシートにバタンと身体を預けた。
しばらく逃げられそうにない。
観念したかのように、瑠香は瞳を閉じた。