眠り姫の唇
ぶらぶらと手にハイヒールを持ちながら、手癖の悪い男が帰ってきた。
間違い無く自分の靴だと認識してから、瑠香はじろりと岩城を睨む。
「…そんなんもって良く店員が物売ってくれましたね。」
ブスッとしながら減らず口を叩くと、その男は初めて声に出して笑った。
「まぁ不振がられてたけどな。」
そのまま通報されれば良かったのに。
心の中で悪態を吐いてみるも、それすら聞こえているように岩城という男はクスクス笑った。
ふと男の顔を覗き見てみる。
ハンドルを握りながらシートにくたりと身体を預け前を向く姿は、こんなことされていると分かっていても、びっくりするぐらいセクシーだ。
ふと男の左頬に目が行く。
あれ?あんな所に傷なんてあったっけ?
その瞬間、瑠香はハッとした。
…ヒールで殴りつけた時のだ。