眠り姫の唇




"何もしないからお願いだから傷の手当てだけさせてくれ"



その言葉に戸惑いながらもおずおずと頷き、瑠香は現在にいたる。


左頬の傷を見ていたら、とてもNOとは言えなかったのだ。



"お、降ろして下さい!っていうか靴返して下さい!"


車から降ろされる時のお姫様抱っこにはかなり焦ったけど、この人に力では到底かなわないということは薄々分かっていた。


一人暮らしの男の人には広めの2LDK。


物が余りにも少なくてびっくりする。


「ストッキング、脱いで。」


治療の為と分かっていても、そのやたらと色気のある声にドキリとする。


「ちょっと、…絶対見ないで下さいね!」


そういって大きめのソファーの裏にこそこそ隠れてストッキングを脱ぎ、男の前に出てくるまで、その人は肩を振るわせてクスクス笑っていた。



「あんたやっぱり面白いな。」


消毒液を傷口にかけながら、男は口元を綺麗に上げる。


会社でこんな顔を見たことのある人は数えるほどなんだろうなと瑠香はぼんやり思った。


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