眠り姫の唇
合い鍵を渡した後の、岩城の笑顔を思い出す。
少し幸せそうな顔。
ただ、それを信じてみたかった。
自分を抱きしめるつよい力を信じてみたかった。
「瑠香、もうお昼だよー。社内食で食べる?」
リサがトンっと瑠香の肩を叩き、覗き込むように訪ねた。
「リサ、ごめん。今から戦に行ってくる。先食べてて。」
「ん?良く分からないけど頑張ってー」
勢い良く立ち上がり、オフィスを出て行く瑠香を、リサは首を傾げながら見送った。
……‥
人気のない場所で瑠香は静かに携帯を握りしめる。
…慎重に言葉を選ばなければならない。
真実を見極める為に。
緊張しながら、“岩城修一郎”をコールした。
プルルル…
プルルル…
「…瑠香?」
耳元から聞こえる、いつもの変わらない体の芯が痺れるような岩城の声に、勝手に心臓が喜ぶ。