眠り姫の唇
「すいません。時間大丈夫ですか?そっち夜ですよね?」
「ああ、夜の8時だ。日本はちょうど昼間か。」
瑠香からかかってくるのが意外だったのか、岩城の声は少し驚きを含んでいる。
「瑠香から電話来たの、初めてだ。」
「え?そうですっけ?」
「…寂しくなったか?」
クスクスと笑い声が聞こえて瑠香はムキになる。
「もう一週間ほど渡米しといて下さい。」
「クスクス…冗談だ。」
「あの…」
瑠香は片手をぎゅっと握り締めながら、質問する。
「…そっちの時間でいうと、昨日の夜中、私に電話しませんでした?」
瑠香はそう言った後、静かに唾を飲み込んだ。