眠り姫の唇
「電話?」
「酔っ払って、間違えてボタン押してしまったとか…」
心臓がバクバクする。
「いや、それはない。酒なんてこっちに来てから一滴も飲んでないし、そもそも昨日携帯を無くしてた。」
「…無くしてた?」
「ああ、かなり焦ったが、朝には見つかったし仕事には問題なかったよ。」
「そうですか…あの、隣の桜子さんの部屋とかに入られたことあります?」
「あ゙ぁ?…なんだそんな事心配してたのか。そんなに妬かなくても帰ったらイヤってほど鳴かしてやるから安心しろ。」
「や、妬いてません!」
「ふっ…、そんなに牙むくなって。今すぐにでも日本に帰りたくなるだろう?」
その甘ったるい響きに、瑠香は胸が締め付けられた。
電話越しの、岩城の形の良い唇が綺麗に歪むのを想像して、いやになる。
「…早く、帰ってきて下さいね。(ボソッ)」
「あ?なんていった?」
「いえ、じゃあ失礼します。」
終了のボタンを押し、瑠香はぐっと拳を握りしめた。