眠り姫の唇
夢を見た。
顔は見えないけれど、声も聞こえないけれど、その人が岩城だということが分かっていた。
夢の中なのに、抱き締められると、びっくりするぐらい満たされた気持ちになった。
柔らかいベージュ色の風に包まれて、素直に幸せを感じた。
「起きたのか?」
「……………………え?」
瑠香は目の前の映像が信じられなかった。
自然と開く瞳に移ったのは、スーツ姿のまま隣で横になる岩城の微笑みだった。
「…えぇ?!」
「どんだけ眠り姫してるつもりなんだお前は。もう昼過ぎだぞ。」
瑠香はまだ夢でも見ているのかと、布団からガバッと体を上げる。
それをやんわり大きな手に戻されて、またポスッとベッドに逆戻りした。
「…今日ってまだ日曜日ですよね?」
「今日が月曜日ならお前は確実に遅刻だな。」
軽く笑った男の後ろには、おもむろに置かれた大きなキャリーバッグ。