眠り姫の唇
男の唇がとうとう細い首に移動してきた時、ハッと、瑠香は正気を取り戻し、岩城をドンっと突き飛ばした。
「……。」
「はぁ、はぁ、」
瑠香はさっきまでの自分を恥じるように唇に手をやる。
…どうかしてる。
この男の瞳に捕られると、身体が自分のものではないように勝手に動く。
まだ熱い身体をギュッと抱き締め、ソファーでひざを縮めた。
「…悪い。」
その言葉に瑠香は目を丸くする。
この男の口から謝罪が出たのは初めてだ。
岩城がそっともう片方の足に手をやる。
必然的にビクッと震えると、更に優しく、壊れ物を扱うようにそっと引き寄せて消毒液を付けるので、瑠香は抵抗するタイミングを逃してしまった。
やっぱりこの男、息が一つもあがっていない。
それがヤケに悔しくて、瑠香はぷいっと顔を背ける。
自分ばっかり…、恥ずかしい。