眠り姫の唇


男の唇がとうとう細い首に移動してきた時、ハッと、瑠香は正気を取り戻し、岩城をドンっと突き飛ばした。


「……。」


「はぁ、はぁ、」



瑠香はさっきまでの自分を恥じるように唇に手をやる。


…どうかしてる。


この男の瞳に捕られると、身体が自分のものではないように勝手に動く。



まだ熱い身体をギュッと抱き締め、ソファーでひざを縮めた。


「…悪い。」


その言葉に瑠香は目を丸くする。

この男の口から謝罪が出たのは初めてだ。


岩城がそっともう片方の足に手をやる。


必然的にビクッと震えると、更に優しく、壊れ物を扱うようにそっと引き寄せて消毒液を付けるので、瑠香は抵抗するタイミングを逃してしまった。


やっぱりこの男、息が一つもあがっていない。

それがヤケに悔しくて、瑠香はぷいっと顔を背ける。


自分ばっかり…、恥ずかしい。


< 24 / 380 >

この作品をシェア

pagetop