眠り姫の唇
「…。ん、案外うまいな。」
「…。」
そう言って岩城は眉間のシワを解除した。
打って変わったようにアスパラをガツガツ食べながら、 岩城は瑠香をチラリと見る。
後から恥ずかしくなってきて赤くなりながら下を向く瑠香に、岩城はおかしくて仕方ないといった感じにニヤリと笑った。
その顔が明らかに確信犯のそれだったので、瑠香の機嫌は急激に悪くなる。
「何照れてるんだ。」
「照れてません。」
「赤くなってた。なんでこんな事で照れるんだ?
…ベッドではもっとすごいコトしてるのに。」
いつものポーカーフェイスで食卓に相応しくない発言をケロッとしてくる岩城に、瑠香はカァーッと声を荒げた。
「今度から絶対にしませんから!」
「ふっ、はははっ。」
楽しそうに岩城は笑ってまたヒョイッとアスパラを食べる。
…平和だ。
あれから4日。
瑠香はドキマギしながらも穏やかな日々を過ごしていた。
桜子からまたいつ何か仕掛けられてくるか分からないから、本当は気が気ではないのだけれど。
目の前で子供みたいに笑う大人を見ていると、いっつも桜子の事を忘れてしまう。