眠り姫の唇


三國という男はそもそもこんな強引な人物ではない。


どちらかというと、少し気弱で、人が良さそうで、騙されやすそうで…。言い方は悪いが少し馬鹿っぽい。


普段の自然な笑顔はそこにはなく、何かを必死になりながら、それでもワクワクしているという良く分からない様子だった。


「…どこ連れて行くの?」


「10階。高江に会いたい人がいるんだって。」


「誰?」


「着くまで秘密。安心して、男じゃないから。」


つまり、女。


瑠香はあの人しか思いつかなかった。


10階は、入っている部署が少ない分、半分以上が会議室だった。

瑠香の部署も会議がある時は10階を使う。


一部のあまり使われない小さな会議室は恋人達の逢瀬の間や、内緒の話をする場として有名だ。


三國はずいずいと瑠香をその会議室に案内する。


「…本当にここ?」


「うん。無理やり連れてきてごめんな。今回は俺の為だと思って。大丈夫、素敵な人だから。悪いようにはしないって言ってたし!」


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