眠り姫の唇
その言葉に。
降参とでもいうように岩城は深い溜め息をついた。
「…そうか。あんたにでも分かるか。」
「そりゃあんな顔してれば分かりますよ。鈍感な前川先輩と一緒にしないでください。」
その悪態にふははと岩城が笑う。
「…ふぅー。…最後の悪あがきだったんだよ。」
最後の悪あがき…。
ドカっと瑠香の隣にソファーへ倒れ込むように座り、彼はそう言った。
「俺と前川と久保井…久保井ってのは前川の旦那だけど。俺らは同期っていうのは知ってるか?」
「それは聞きました。」
岩城は思った。
俺は何を話そうとしているのか。
こんなたまたま昨日出会ったばかりの小娘に。
それでも、じっと見据えるその瞳を見ていると、色々吐き出したくてたまらない衝動に駆られた。
何年も。
誰にも打ち明けずに来たこの気持ちを。