眠り姫の唇
「前川の事は初めは嫌いだった。あんなちゃらんぽらんな女とは今まで縁がなかったからな。三人とも元は同じ部署に配置されて、それがなければ関わり合うこともなかったと思う。」
岩城は膝に体重をかけ、その前に手を組む姿勢をとる。
「気がついたら良く三人で飲みに行くようになってた。初めは嫌いな前川だったけど、…まぁ、だんだん良いところも見えてくるし、色々あって、仲間としても二人とも…大事な友人になってた。」
「はい。」
「でもとうとう、ある日気がついてしまった。あぁ、俺前川が好きなんだって。それは突然で自分でもだいぶ戸惑ったが、それはそんなにたいした問題じゃなくてな…。」
「…はい。」
「その時には、すでに前川は久保井のもんになってた。それが一番の問題だった。」
「…。」
「そうこうしてるうちに俺は上の階に飛ばされるし、」
…それって出世じゃないのか。
瑠香は密かにそう思ったが、ただ黙って続きを聞いた。