眠り姫の唇
「久保井はやたらと優秀だったからあの歳で独立するとか言い出すし、前川は不安で泣くし…」
「…。」
岩城ははぁと軽く溜め息をつく。
「…何度も言いそうになった。"俺にしとけよ"って。でも言えなかった。言えるわけ無い。前川も久保井も大切だった。それに、前川はいつも久保井しか見てなかったしな。喧嘩してもいつの間にか仲直りしてやがって、勝手にやってろよって何度思った事か…。」
「…。」
「久保井が独立して、小さな会社だがやっとこさ軌道に乗り出したって事で、今回結婚が決まったらしい。」
そういうと、ドサッとソファーにもたれて上を見上げる。
「なんも出来なかった男の、一番カッコ悪いところ。あんたにみられちまったな。」
それだけ言うと、岩城は口を閉じた。
「…。」
瑠香は結局"はい"以外何も言えなかった自分を悔やんだ。
ただただ不躾に聞き出しといて。
彼になんにもできない自分が少し悔しかった。
「…。」
「……なに。」
岩城は後ろから伸ばされた手に抵抗することなく答えた。
両目を塞がれ、何も見えない。