眠り姫の唇
「泣いて良いですよ。」
「は、」
今日は良い天気ですね。みたいな口調で彼女がそんな事言うから。
岩城は少し笑ってしまった。
「ばーか。」
「…。」
泣くかよ。なんで俺が泣かなくちゃならないんだ。
それでも彼女の手は更に力強く頭を包む。
「こうすれば私にも見えませんから。」
「あのなぁ…。」
彼は半ば呆れたような声を出したが、スッと自分の手に彼の手が重ねられる。
「…辛かったですね。」
「…。」
「…。」
「…っ。」
手が少し濡れたけれど、少しも冷たく感じなかった。
あの冷たい瞳から、こんな暖かい涙が出るのかと、瑠香はぼんやりと思った。