眠り姫の唇
瑠香はそれほど驚かなかった。
むしろ、やっぱり、というのが感想だ。
「匿名でメールなんて出来るんですか?」
「出来ない事もない。新しくアカウントを取って、使い捨てのように後で廃棄すれば問題ない。会社内からならセキュリティーも問題なく通過出来る。」
岩城ははぁーと大きくため息をつきながらシートを倒した。
「…なんか疲れた。」
「ええ、ホントに。」
「こんなに早く仕事終わらせたの久しぶりだ。人間やれば出来るもんだな。」
「アハハ、そうですね。」
「…あいつ、何考えてんだろ。」
あいつ、というのは桜子の事だろうか。
岩城は仕事のクレームに眉を寄せるように頭をかいた。
岩城さんの事が、好きだからじゃないですか。
「…さぁ。」
瑠香はおどけて首を捻る。
「岩城さん、車から降りてもいいですか?」
「ああ。」