眠り姫の唇
「“桜子”の方が愛称だろう?あいつの名字は佐倉。佐に倉って書いてサクラだ。」
「え、えええ!」
瑠香は目を丸くして飛び上がる。
知らなかった。
「そういえば、なんて名字なんだろうとは思ってたんですけど。」
「瑠香は時々、バカみたいだよな。」
「なんですかそれ。」
だんだん、繋がっていく。
岩城からしたら、いきなり愛称で呼んでいる瑠香の方が意外に映っていたのであろう。
「え、じゃあ、桜子さ…佐倉さんの下の名前ってなんですか?」
「ああ、確か……」
◆
車に戻って、岩城は鍵を差し込む。
エンジンを付けてから、じーっと瑠香を見つめた。
「…なんです?」
瑠香がきょとんと見つめ返すと、岩城はいきなり身を乗り出してチュッと軽く瑠香の唇を霞み取る。
「行くか。」
「………………………はい。」
ポーカーフェイスのままハンドルを握る岩城に、瑠香は赤くなった頬をさり気なく隠しながら返事をした。