眠り姫の唇


「水音もしなかったし、まさか人が入ってるなんて…。」


観念したように抵抗をやめた瑠香を覗き込みながら、岩城はあぁ、と説明した。


「ここ防音効果抜群だからな。」


なにゆえに。


久保井の謎の気配りに瑠香は首を捻る。


それをみて岩城がおかしそうに笑った。



「なんでそんなわざわざ金のかかることアイツがしたと思う?」


なおも首を傾げる瑠香に岩城が唇を寄せて怪しく囁いた。



「前川が周りに聞こえるって散々ごねたせいらしい。」



「……………………。」



「…意味、分かるか?」



「…え、…それはつまり……。」


まさかな答えに瑠香は限界まで顔を赤らめる。



岩城の意味深な色気を含んだ表情に、勝手に想像が膨らむ。



それはつまり、そういうことなのか…?


普段を知っている人のそんな話…、ちょっと、いやかなり聞きたくない。





< 317 / 380 >

この作品をシェア

pagetop