眠り姫の唇
「…!」
瑠香は、バッと顔を上げる。
岩城はその顔を覗き込んでプッと吹き出して、ドカッと隣に座った。
「酷い顔してんな。」
「な…なん…」
なんで。
なんでこんなところにいるんだ。
「前川先輩を追いかけたんじゃ…。」
えぇ?と顔を歪ませ、岩城は瑠香を見る。
「なんで俺がそこまでしなくちゃいけないんだ。めんどくさいから即久保井に連絡したよ。」
はぁ。と、ひと仕事終えたようなため息をつき、岩城は夜空を見上げる。
やっぱり星は見えにくいな、などとぼやきながら、岩城は再度瑠香を真っ直ぐ見つめた。
「お前、見てたんだろう?もしかして、会話の方は聞こえてなかったんじゃないか?どう考えても、あいつらの痴話喧嘩の仲裁してただけだろう。勘違いすんな。」
だって…。
「…抱き締めてたじゃないですか。」
あんな切なそうな顔で…。
「…お前見えてなかったんだな、俺、アイツに殴られたんだぞ。痛いの我慢して取り押さえたんじゃないか。」
「え?」
瑠香は目を丸くする。
確かにあの角度だと、ちょうど前川の左腕がどう動こうが見えないが。
「前川先輩でも、人殴ったりするんですか?」