眠り姫の唇


「ちょっと、ちょっと起きて下さい岩城さん。」


ぺちぺちと顔を触ると岩城は眠そうに片目を開ける。

「…なに。」


「私、誰だか分かります?」


「誰って瑠香だろ…?」


「さっきから分かってました?」


最初から、布団に引きずり込んだ時から分かってました?


岩城は朝から耳元で叫ばれ、すこぶる鬱陶しそうに眉間にシワを寄せる。


「…なに。何が言いたいんだ。」

「だから…。…ほ、他の女の人と私を間違えてません?」


「あ゙ぁ?」


その一言にまた岩城の機嫌が悪くなる。



「…、酔っ払ったあんたをここに運んだのも俺だし、服が皺になるってやたら怒り出したあんたの服をハンガーにかけたのも俺だし、あんたの隣で寝たのも俺だ。しかも夜中に散々キ……。そんなめちゃめちゃな女を、いったい誰と間違うんだ。」


「……。」


今なんか聞いてはならない事実を知ってしまった気分。


しかも言いかけた言葉が一番重要な事な気がしてならない…。


< 36 / 380 >

この作品をシェア

pagetop