眠り姫の唇
【2013/09/29ファンメールにて】
『リスト』








「これ。」

「え、」

カサリと白いメモがソファに座る瑠香の目の前に突き出された。

年賀状の整頓をしていた瑠香は首を傾げながら片手で受け取る。

黒いペンで書かれた綺麗な文字に更に首を捻り瑠香は岩城を見上げた。

「なんですかコレ。」

「リスト。」

沙由里、千夏、萌、咲、陽子、香織、樹里、…

ずらずらずらと並んだ名前に瑠香は怪訝な顔をする。

「歴代の彼女?」

「何わけわからん事を言ってるんだ。」

ドカッと瑠香の隣に座りながら岩城はメモを指差した。

「修一郎さん、あの、、」

「俺は千夏か咲がいいと思う。」

「いや、そうじゃなくて、」

「瑠香の香をとった香織も捨てがたい。」

瑠香は膝掛けを落としそうになりながら、岩城の顔を覗き込む。


「だから、


そもそも性別まだ分かってないんですけど。」

まだまだ小さなお腹に手をやり、瑠香はもう一度メモを見た。


…絶対女の子って決めつけてる。


困ったような顔をする瑠香などお構いなしに岩城は画数がどうのこうのとまた語り始めた。


「まぁ結婚すれば苗字は変わるだろうしあんまり気にしなくてもいいとは思うが、この漢字は…」

「はぁー…。はいはい、パパは相変わらずせっかちさんですねー。」

瑠香はお腹を撫でながら人ごとのように話しかける。

「おい、落ちるぞ。」

岩城は瑠香の膝掛けを直しながら、そっと愛妻のお腹に手を重ねた。

「…瑠香、」

「はい?」

瑠香は優しく微笑みながら岩城を見上げる。

「…ありがとう。」

「……いや、まだ産んでませんけどね。」

瑠香は照れ隠しに唇を尖らしてそっぽを向いた。

「お産は、本当に、大変だと思うが…、」

「だから後半年も先ですって。」

今から自分が産まんとでもしているような深刻な顔付きで岩城がすごむ。


「修一郎さんが産むんじゃないんですから…、あ、落ちた。」



ヒラリと舞った一枚の年賀状。



瑠香が拾おうとして伸ばした腕を、

岩城がパシリと止め、

体ごと抱きしめてそしてゆっくり優しく、柔らかいキスをした。







床に落ちたままの年賀状は、黙って事の成り行きを見守るのであった…。



【岩城修一郎様・瑠香様


あけましておめでとうございます。

昨年は第一子が生まれました。

今年もどうぞよろしくお願いします。


p.sヤッホー元気にしてる?今年はとうとうママ友になるね!みんなでまたご飯行こうねーっ!
久保井】


fin
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