眠り姫の唇
………‥
「…なんだ、機嫌でも悪いのか?」
「…。」
助手席で瑠香は黙りを決め込む。
「おい、黙ってたらなんなのか分からん。」
「…約束です。家まで送って下さるんですよね?」
車を走らせながら岩城の眉間にシワが寄る。
「昨日と同じ服なんです!即座にお風呂に入りたいんです!」
「分かった。家まで送って、10分やるから服だけ取ってこい。風呂は俺のところで入ればいい。」
は?
なんでそうなる。
「やです。」
「どうして。」
「岩城さんのところリンスないですもん。」
はぁ、と岩城はため息をつき、諦めたように信号を見た。
「分かった、分かった。薬局によるから好きなリンス選んでこい。シャンプーもつけていい。…本当にワガママな女だな。」
瑠香はかなり聞きづてならなかったが、そこはぐっと我慢した。
「(何故ならば“大人”だから。誰かさんと違ってね!)」
「次の交差点、どっち。」
「あ、そこ右です。」
…まぁ車の方が電車より早いし、今回は折れてあげるか。と瑠香は思った。