眠り姫の唇


“デート”という単語に岩城は渋々瑠香の上から避ける。


なんでゲーセンなんだ色気の無い奴め…とぶつぶつ良いながら岩城は乱れた服を直す。


瑠香はホッとしてベッドから起き上がり、そんな岩城を見つめた。


「おいガキ。行くんだろ。」


「はーい。」


瑠香は化粧ポーチと着替えの服を持ち、ユニットバスに逃げ込む。



「40秒で支度しろ。」


「それは無理です。」





自分で言ったものの、デートという響きにちょっと緊張してしまう。


デートなんて何年ぶりだ?



瑠香はファンデーションを持ちながら、少しウキウキしてしまっている鏡の向こうの自分をたしなめた。
















ガチャッ と小さな扉を開いて瑠香は岩城の前に姿を表した。


遅い、と言いかけた岩城の口が、少し開いたままになっている。



「どうです?」



「……化けるもんだな。」


「化粧ってそういうもんなんです。」


瑠香はメイクを濃くすればするほど大人っぽくなる顔立ちということを自分でよく分かっている。

今回は仕事用のナチュラルな感じではなく、デート用に少し甘めにしてみた。



「だってデートですからね。」


そうニッコリ笑って手荷物を掴み、岩城を玄関に引っ張る。




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