眠り姫の唇
「スタートだ。」
「やっ、ちょ、抗議したいことがまだ山ほどあるんですけど!」
…そんな感じで、岩城と瑠香は子供みたいにはしゃぎまわりながら、あっという間に時間が過ぎていった。
「はー、楽しかったー!」
ぬべんと前に倒れながら、瑠香は助手席で笑顔を作る。
「ありがとうございました岩城さん。」
前の信号を見ながらも岩城はクイッと口元を上げる。
「晩飯、なにか要望はあるか?」
「んー…岩城さんのオススメで。」
「そうか。分かった。…ちょっとお前には早いかもしれんが。」
「あの、私25歳って知ってました?」
「初めに俺を30って言ったのどこのどいつだ。」
あ、根に持つタイプだ。
瑠香は首をすくめて大人しくしていた。
◆
そこは、薄暗くて、凄く雰囲気のあるお洒落なショットバーだった。
その狭いカウンターに堂々と足を踏み出して岩城は適当に腰掛ける。
「いらっしゃい」
少し髪が長めで雰囲気のあるバーテンダのお兄さんがニッコリ笑いグラスを磨いていた。
「…瑠香。なにしてる?」
岩城は早く来いと瑠香を呼ぶ。
瑠香は雰囲気に呑まれて、一歩遅れながら室内に足を踏み入れた。
「あれ、修一郎さんが人連れてるなんて珍しいね。」