眠り姫の唇
バーテンダのお兄さんが笑顔を崩さず岩城に訪ねる。
「俺の飼い猫。」
「あぁ。」
それだけ言うとお兄さんはクスクス笑った。
「はじめまして修一郎さんの子猫ちゃん?俺は信雄。みんなからはノブって呼ばれてる。」
少しタレ目がかった瞳で甘く微笑みながら、バーテンダは瑠香に握手を求めた。
イイ男オーラがハンパない。
隠しきれない色気が空気にだだもれしている。
瑠香は少し気後れしながらも手を差しだしたが、そんな事よりもさっきから人を動物扱いする岩城に若干キレていた。
「はじめましてノブさん。私高江瑠香っていいます。ちなみに岩城さんは寂しがり屋の大型犬って感じですから。」
ブスッとしながら瑠香がそう答えると、バーテンダは大笑いする。
「ハハッ!修一郎さん、この子面白いね!修一郎さんにこんな事を言える人に初めてあったよ。」
「この減らず口が。」
「俺、大学時代修一郎さんの後輩だったんだ。良かったらサービスするよ。どんな感じのが良いか気軽に言ってね。」
「わぁっありがとうございます。」
サービスという言葉に瑠香は大喜びしたが、こういうところは初めてなのでどう注文していいか分からない。どうやらメニュー表もないようだ。
カウンターの奥にずらりと瓶が並んでいる。
それが一つ一つライトに反射してとても綺麗だった。