眠り姫の唇
カウンターの席がTシャツ姿でも何故かハマってしまう岩城に視線を奪われる。
「ノブ、飯がまだなんだ。適当に見繕ってくれ。それとコイツに甘くて度数少ないヤツを。」
「OK。修一郎さんはジンでいい?」
「いや、今日は車なんだ。」
「じゃあ甘くないヤツ適当に出すよ。」
一言も甘いのが好きなんて言ったことがないのに、なんで分かるんだろうと瑠香は不思議そうに岩城をみつめた。
その視線に気がつき、岩城はチラリと瑠香を横目でみる。
「…この前酔っ払った時、なんで甘いのがないんだって、お前怒ってたんだよ。」
大変だったんだからなと岩城は不機嫌そうに出てきたグラスをクイッと傾けた。
瑠香は思い出していた。そういえばあの机にはウイスキーとビール缶しかなかった気がする。
…いったい自分はどれほどの事をやらかしたんだと頭を抱えた。
まだまだ出てきそうで本当に怖い。
「どーぞ。」
そんな瑠香の前に手を付けるのが勿体無いぐらいの綺麗なお酒が出て来た。
「わぁ…」
小さめのグラスに紫と水色がキレイにグラデーションをつくっていて、上にちょこんと輪切りにされたオレンジが乗っている。