眠り姫の唇
「…っ……やめ…」
「口を口で黙らせただけだ。」
「……っ……」
口内を好き勝手暴れる舌と岩城の鋭い瞳で、目尻に涙が滲む。
いつの間にか腕は離され、変わりに掻き抱くように強く回された岩城の腕に身を預けた。
必死に巻き付くその腕に、自分が求められていると勘違いしそうになる。
その瞳に自分が写っていると言うだけで、泣きそうになる。
「!」
脇からわき腹にかけてするりと移動する手のひらに身体がビクンと反応する。
涙目になりながら岩城を見上げると、余裕のない瞳が真っ直ぐに瑠香を見下ろしていた。
「…嫌いか?」
「…。」
キスが、という意味だろうか。それとも岩城本人がという意味だろうか。
「…。」
「…いえ。」
答えはどちらもNOだ。
痺れてぼんやりする頭で岩城を見つめ返す。
「じゃあ、…好きか?」
「…。」
瑠香は戸惑いながらもゆっくりと頷いた。
…好き。
…好き、なんだと思う。
何がとは自分でも良く分からないが。
とりあえず今目の前にあるもの全てが自分を魅了して止まない。
彼の瞳、彼の唇。指。腕。肩。胸。
その息遣い。声。視線。
全てが自分を向いていて欲しいと思ってしまう。