センセイと一緒【完】
一章
1.桜吹雪の想い出
――――あれは、春。
軟らかい木漏れ日が差し込む、中庭の芝生の上。
満開の桜の下、さざっという風の音とともに桜の花びらが降り注ぐ。
辺りには花の甘い香りが満ち、遠くで雲雀のさえずりが聞こえる。
『鈴菜……』
懐かしい声が耳をくすぐる。
うららかな春の陽気の中、芝生に仰向けになって微睡む鈴菜の額に優しい口づけが落ちてくる。
遠い記憶を呼び覚ますような、記憶を掬い上げられるような不思議な感覚に鈴菜は身じろぎした。
『やっと会えた……』
かすかな衣擦れの音とともに、唇に柔らかく温かいものが触れる。
触れた部分から温かい何かが流れ込み、頭の先から指の先まで、優しい何かで満たされていく。
記憶の中に蘇る、懐かしい声。
これは誰の声だったのか……。
記憶の糸を辿ろうとするが、どうしても思い出せない。
やがてざざっという風の音とともにその人の気配は消えていった。
あれは、夢だったのだろうか。
春霞の中、桜吹雪が見せた幻だったのだろうか……。