センセイと一緒【完】
「鈴……」
心の奥底で何か得体の知れないものが動き始める。
それから目をそらすように、柊史はぐっと目を瞑った。
昔から純粋無垢な笑顔を自分に向けていた鈴菜。
――――自分が蜘蛛だとしたら、鈴菜は遥か上空をふわふわと飛ぶ蝶だ。
汚れのない、美しい世界を伸びやかに飛んでいく蝶。
柊史には決して触れることができない、触れてはならない、輝く蝶。
鈴菜の純粋さ、素直さに救われたのは和泉も同じだろう。
強烈な個性の和泉の横では鈴菜は一見目立たない存在だが、和泉が鈴菜の傍にいるのはその素直さ、純粋さを心の奥底で求めているからだ。
自分達のような傷を持つ人間にとって、鈴菜は澄んだ泉のような存在だ。
「傷を持つ人間、か……」
なぜかそこで尚哉の顔が脳裏に浮かび、柊史は眉をしかめた。
……あの男のことはよくはわからない。
柊史と同じ近隣の国立大学を出ており、大学の同期でもあるが、学部が違ったため詳しくは知らない。
柊史はひとつ息をつき、次の生徒の成績表のチェックを始めた。