センセイと一緒【完】
とん、と柊史が後ろからドアに片手をついた。
硬直する鈴菜の耳元に、後ろからそっと囁く。
「気を付けろ。……お前は無防備すぎる」
「……」
「旅行中はみな、タガが緩んでいる。狼の群れの中にいるようなもんだ。気を抜いたら食われちまうぞ?」
「……っ」
「オレの傍にいればオレが守ってやるが、四六時中、一緒にいるわけにはいかねぇからな。気を付けろよ?」
耳に忍び込むハスキーなバリトンの声。
背後から香るオリエンタルなホワイトムスクの香り。
柊史の体温、声、香り……
思わず立ち尽くす鈴菜の後ろから、柊史はくすっと笑ってドアノブを回した。
「わかったな。……さあ、戻れ」
「……」
鈴菜はぎこちない動きで柊史の部屋を出た。
……何だったんだろう、今のは。
ドキドキする胸を押さえ、鈴菜は3階へと向かった。