センセイと一緒【完】
「僕に森下さんの気持ちがわからないように、森下さんにも僕の気持ちはわからないでしょう」
「……」
「僕が今、どんな思いでここにいるのか。……きっと森下さんには、想像もつかないと思いますよ?」
言い、尚哉はそっと鈴菜の頬に手を伸ばした。
……優しく触れる指先。
指先から、何かが……尚哉の心が流れ込んでくるような気がする。
その感触に鈴菜は目を伏せた。
尚哉はしばし鈴菜の頬に触れた後、そっと手を下ろした。
「さ、そろそろ入浴の時間ですよ。早めに戻ってくださいね」
「……はい……」
尚哉は踵を返して桜の通路の方へと歩いていく。
桜の下、遠ざかっていくその後ろ姿を鈴菜はなすすべもなく見つめていた。