センセイと一緒【完】
『桜羽市』は太平洋に面した風光明媚な地方都市で、一年を通して温暖な気候だ。
鈴菜はこの町で生まれ、小学2年までこの町で育った。
その後、父親の転勤で札幌や東京に行き、今年の4月に再び父親の転勤でこの町に戻ってきた。
東京に比べると恐ろしくのどかなこの町だが、戻って半年も経つとこののどかさに慣れてしまう。
この高校は海沿いにあるため、夏になると風に潮の香りが混ざる。
今は9月。
夏の名残だろうか、風の中にかすかに潮の香りが残っている。
鈴菜は寝ぼけ眼で欠伸をしながら、もう一度寝返りを打った。
……その時。
腰のあたりに突然重圧を感じ、鈴菜は身を強張らせた。
「鈴。……おーい、鈴?」
「……」
「そろそろ時間だよ。早く起きないと、その可愛い唇にキスしちゃうよ?」
耳に忍び込む、少し高めのアルトの声。
鈴菜ははっと目を開けた。
その目に飛び込んできたのは……。