センセイと一緒【完】
「今日は110ページ。平安時代の文化について」
少し低めの甘いテノールの声が教室に響く。
鈴菜は言われたページを開き、シャープペンシルを握った。
「……で、この平安初期に書かれた『伊勢物語』は後世、能や浄瑠璃の題材にもなっていくわけです」
尚哉は教科書に沿って解説しながら、黒板に書いていく。
鈴菜はノートに書きとめながら尚哉の話を聞いていた。
「有名なのは『筒井筒』とかですかね。あ、これはノートに書かなくていいですよ?」
尚哉は教科書に載っている以外のこともいろいろ話してくれる。
その豊富な知識は他の日本史の先生も一目置いているらしい。
そして丁寧で的確な教え方は、とても分かりやすく生徒たちに評判がいい。
鈴菜は教壇の尚哉をじっと見ながら話を聞いていた。
「『筒井筒』は簡単に言うと、幼馴染の二人が結婚するという話です。今も昔も、男女の仲は変わらないんですね」
色恋沙汰は高校生にとっては興味ある話だ。
皆、へぇ~といった表情で頷いている。
尚哉は少し笑い、続けた。
「今より娯楽がない分、昔の人の方が情熱的だったのかもしれません。……さて平安時代にはこの他にも様々な作品があります。では教科書に戻って、111ページ……」
尚哉は教科書を片手に、黒板に書いていく。
鈴菜は内容を教科書で確認しながらノートに書いていった。