センセイと一緒【完】
「授業でもちょっと触れましたが、伊勢物語の『筒井筒』は能でよく演じられる『井筒』の元になった話です」
「能、ですか?」
「ええ。秋に毎年行われる『桜羽能』でも、『井筒』が毎年奉納されていますよ」
尚哉の言葉に鈴菜はへぇっと声を上げた。
桜羽市には『桜羽神社』という神社があり、毎年秋になると『桜羽大祭』というお祭りが開かれる。
もともと風神様を祀る祭りで、祭りの日には風鈴や風車などが縁日に並ぶ。
近隣の町からも多くの観光客が訪れる人気の祭りで、昔から桜羽市の秋の風物詩となっている。
ちなみに『桜羽能』は桜羽大祭で奉納される能で、これも相当歴史があるらしい。
「『筒井筒』のもともとの意味は井戸を囲う竹垣のことです。で、伊勢物語の『筒井筒』はですね……」
と言いかけたところで尚哉は言葉を止めた。
少し笑い、鈴菜を見る。
「僕は伊勢物語が好きなので、つい話したくなってしまうんですが。……聞きたいですか、森下さん?」
「あ、はい」