センセイと一緒【完】
2.真剣勝負
5分後。
鈴菜は弓道場の入り口からそっと顔を覗かせた。
弓道場に入るとすぐに道具室と更衣室があり、その奥に弓を射る『射場』と的が置いてある『的場』がある。
射場と的場の間は30メートルほどの距離があり、その脇には矢を取るために移動するための通路である『矢取道』がある。
鈴菜が弓道場に入ると、見学席に座っていた男子部員が声をかけてきた。
「あっ、見学ですか?」
「あ、いえ、和泉の忘れ物を……」
と言いかけた、その時。
ひゅんと矢が飛ぶ音がし、鈴菜ははっと射場を見た。
射場に立っているのは、和泉と、そして……
「……白崎先生?」
尚哉は白い弓道衣と黒の袴、そして射用の皮手袋を身に着けている。
すっと背筋を伸ばし、左手に持った弓に矢をつがえ、ゆっくりと引き込む。
その真剣な表情と、張りつめた水面を思わせる空気に鈴菜は息を飲んだ。
的をじっと見つめる、夕凪を映したかのような澄んだ静かな瞳。
美しい立ち姿。端整な横顔。
初めて見る尚哉の姿に、鈴菜は目を奪われた。