涙にキスマーク



静寂が部屋を支配して、夕焼けで赤く染まったそこはゆっくりと色を変える。




「おい、なんの冗談だ…」


軽めの低音があたしの耳にぞくりと響く。

咎めるような鋭さが、その響きを助長していると、きっとこの人は気付いていない。


そもそも、質問に来たからといって女生徒と理科準備室で二人きりになって、更に不意をつかれて壁に押さえつけられるなんて。

この人はどこか鈍い。


けれど、大人の男を思わせるいつもの不敵さと今とのギャップはなかなか見物だし、何より手の中で握った青いのネクタイの感触は想像以上に気持ちがいい。


「ねぇ、センセー」

「…あ?」


少しだけ警戒心を覗かせて、それでも教師らしく目線は二十センチ程下のあたしに合わせてくれる。

いつものこと。


でも


「ーーイケナイコトしてるみたい?」

「ばっ…!」


いつまでも甘く見られるわけにはいかないの。




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