涙にキスマーク
「こんな体制、誰かに見られちゃったらどうしよう」
そう言って少し距離を縮めれば、分かりやすく体が固まった。
あれ?てっきり怒鳴られるかと思ったのに。
「センセー?」
「な、にを……」
「大変だーー」
と、それまで静かだった空間に、コツコツと音が聞こえた。
廊下から聞こえてくるそれは、明らかに誰かの靴音で。
次第に大きくなる音が、近付いてきていることを示していた。
……丁度良い。
「ね、このまま見つかっちゃう?」
「バカ言うな。いいから早く離れろ!」
「しー、ダメだよセンセー。大きな声だしちゃ」
途端にグッと息を詰まらせる。
女の力なんてたかが知れてる。本気でやればあたしなんて直ぐに離せるはずなのに。
……甘い人。
あたし知ってるの。この人がいつもあたしを気にしていること。
でも、そんな隙間にしか入り込めないから。
ごめんね、先生。