気がつけば愛でした
静奈は貴子に付き添われ営業課へ向かった。
営業課に入る前の廊下で偶然にも関谷部長と会う
「関谷部長!」
「君は…秘書課の?おや、諏訪も。どうした?」
関谷部長は驚いたように振り返った。
50代くらいだろうか。
背は高くないが、スポーツをやっていたであろうがっちりとした体格。
その昔は鬼の関谷と呼ばれた営業マンだったが、今はすっかり穏やかな表情が印象的である。
静奈は関谷部長に向かい合い、深く頭を下げた。
「秘書課の橘です。渡辺グループ専務への日程調整の件をフォローして下さったと聞きました。ご迷惑をお掛けました。申し訳ありません。」
「あぁ、あれね。偶然、専務に会って話をしていた時に言われたんだよね。連絡が無かったと怒ってはいたが、上手くフォローしたから大丈夫だよ。誰にでもミスはある。これからは気を付けなさい。」
「申し訳ありませんでした。」
静奈はますます恐縮した。
営業部長の手を煩わせたあげく、相手側にも印象が悪くなる。怒っていたというならなおさらだ。
本当は連絡したと主張したいところだが、生憎、今日の静奈は集中力も落ちていたし、すっかり自信をなくしてしまっていた。
「関谷部長、本当に専務は怒ってらっしゃいましたか?」
肩を落とす静奈の隣にいた貴子が口を開いた。