気がつけば愛でした
「諏訪、それはどういう意味だい?」
「いえ…ただ、この橘は連絡をしたと言いました。専務に繋がらず秘書の田山さんに伝言したと。しかしその秘書も連絡を受けていないと?」
「あぁ。そう言っていたが?君はあちらのミスだと言いたいのか?」
「可能性はあるかと思います。」
以前の上司なだけあり、諏訪は臆することなく意見を伝える。
関谷部長は困ったように頭を掻いた。
「可能性はあるかもしれんな。しかし専務が怒っていたのは事実だ。仮にその彼女が正しかったとしても、専務とあちらの秘書を責める訳にはいかないだろう。」
そうなのだ。会社の立場的にもあちらを責める訳にはいかない。
だからこそ上手くフォローしてくれた部長には感謝してもしきれない。
しかし…
「はい。しかし、こうしたことは今までなかったんです。ここに来て突然。」
「そうか。そりゃ大変だったな。」
「えぇ。しかも今、上層部は色んな問題が続いている時期で大変なんです。ある意味タイミングが良いですよね。」
「うーん、俺には上層部の仕事はわからんが。まぁ頑張れよ。」
関谷部長の言葉に貴子はゆっくり頭を下げた。
静奈も合わせて再び挨拶をする。
そして去り際に貴子が「あぁそうだ」と振り返った。
「関谷部長。部長は専務やあちらの秘書とも親しいんですよね?」
「あぁ。ゴルフ仲間だ。…諏訪。さっきから何か変だぞ。他に聞きたいことでもあるのか?」
「いえ。ただ聞いてみただけです。」
貴子は秘書スマイルを浮かべ、エレベーターに乗り込んだ。